お題2「いつもの寄り道」
リハビリその2。藤水です。
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仕度も済んでさぁ帰ろうと、水野がロッカールームの扉に手をかけた、その時。
「みーずの、一緒に帰ろっ!」
語尾についた音符さえ見えそうな弾んだ声と同時に、背中に軽い衝撃。そしてにゅっと伸びてきた腕ががしっと首に巻きつく。相手の方が背はあるので首が絞まるようなことはないが、うっとうしいことこの上ない。
お前は犬か、とはしゃいで飛びついてくる愛犬の姿を思い嘆息して、水野は隣に立つ少年を見遣った。見なくてもそれが誰だかはわかっているが。
「いちいち体当たりすんのやめろって言ってんだろ」
藤代、と咎める口調で名前を呼んでも、言われた当人に反省の色はまったくない。何度言ってもやめない体当たり同様、これもいつものことだった。
「だって水野にちょっかい出したいんだもん」
またも音符付きの声音とそれに似つかわしい開けっ広げな笑顔が返ってくる。天真爛漫という言葉の見本みたいな表情。
「渋沢さんとか間宮とかは」
「寄り道して帰りますって言っといた。…もー、水野そんなにオレと帰るのいやー?」
同じ学校のチームメイトの名前を挙げれば、今度は膨れっ面を見せる。本当に、くるくるとよく表情の変わるやつだ。
「別にそういう意味じゃないけど」
「じゃあ決まりー。マック行こーぜー」
早く早くと押される背中にせき立てられて水野はまた愛犬を思い出す。散歩の気配を感じ取ったホームズにそっくりだ、なんて少し笑った。
「あ!笑った!」
それに目ざとく気づいた藤代があげた大袈裟な声は、自然と残っていた選抜メンバーの視線を集める。
「水野せっかくかわいいんだから、にこにこしてればいーのにさ。もったいないの」
「だからかわいいとか言うなって!」
藤代が継いだ言葉へほぼ反射で言い返す。そこでようやく水野は周りの物珍しげな顔に気づいてはっとなり、決まり悪さに慌ててロッカールームを後にした。
「言ってるよなかわいいとか言うなって」
「え〜、褒めてるのに〜」
じろりと横顔を睨んでやっても、藤代は反省するどころかしゃあしゃあとそんなことを抜かして、水野の眉間にはますます力が篭る。
そんな水野に気づかないのか構わないのか、藤代はごくマイペースに、大事なことに気づいたというような口ぶりで続けた。
「でも、ライバル増えたらやだから、にこにこすんのはオレの前だけでいいや!」
にかっと口の両端を持ち上げて笑う顔にすっかり脱力した水野が返せたのは、
「言ってろバカ」
が精一杯だった。
青春10のお題
- 屋上の指定席
- いつもの寄り道
- 木陰で読書
- 片思い×片思い
- 放課後の待ち合わせ
- 木漏れ日の下
- 曲がったネクタイ or 外れたボタン ≪選択式≫
- 一人にして
- 早朝の教室
- 夏の終わり
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