豪風(未来捏造注意)

 イナゴのことはとりあえず置いておいて捏造す。


「おっまえさー、あそこはシュートだろ、シュート」
 少し掠れた声で風丸の指差す先、大型の液晶テレビに流れているのは、先日あった試合の映像。画面の中ではちょうど、豪炎寺の送ったパスからチームメイトが撃ったシュートが、相手のキーパーにキャッチされたところだった。
 遠慮なく痛いところを突いてきやがって、と歯に衣着せぬ物言いに苦笑いするのも、もう慣れたものだ。
「コースのないとこで撃つより確実性をとったんだ」
「決まんなかったじゃん、結局」
「……まあな」
「もったいないなー」
 うつ伏せに寝ころがって頬杖をつく風丸の、ほどいた長い髪の隙間から裸の肩が覗く。互いにプロになってそろそろ若手から中堅へ差し掛かるくらいの年月が流れ、しなやかなその肩や背中が鍛えられた強靭さを隠し持っていることを豪炎寺はもちろんよく知っている。
 知っているのだが、骨のかたちなりに尖った肩の先なんかを見ていると、やはり細いよなと本人が聞いたら確実に嫌な顔をされるようなことを考えてしまう。豪炎寺もフィジカルの強さをそこまで売りにするタイプではないので、実は二人の体型は似通っている。しかし、しょっちゅうぼやいているところを見ると、風丸は面差しの印象も手伝ってか実際よりも華奢なイメージを持たれることが多いらしい。
 そんなことをつらつらと考えながら、手にしていた水のボトルの片方を風丸が伸ばしてきた手のひらに握らせてやる。
「サンキュ」
 ぱきんとキャップをねじ切る音と、礼の言葉がほとんど同時に耳に届く。よほど喉が乾いていたのか、うつ伏したまま器用にあおるボトルの中身はみるみるうちに半分ほどになった。
「あーあ、スコアレス」
 そして画面では試合終了のホイッスル。両チーム得点はないまま。
「次は決めろよ、エースストライカー。ていうか、いつでも点取れ」
 ごろんと仰向けになり、うちとさ当たる時以外な。と付け足して風丸は不敵に笑う。まくらを胸に抱えた仕草のかわいらしさとは対照的に、その細めた瞳がよほど攻撃的に見えて、豪炎寺はどちらがFWだかわかりはしない、と舌を巻いた。
風丸、お前いっそFWに転向すればいいんじゃないか」
フォワードぉ〜?やだよ」
「案外向いてると思うが」
ペナルティエリアとかせまいところでごちゃごちゃするの、性に合わないんだよ」
「それはそうかもな」
 見た目に似合わず、と言うとこれも機嫌を損ねそうではあるが、案外とざっくりした風丸の性分と天性のスピードを最大限活かせるもののひとつがSBというポジションなのは疑いようもない。
 それに、と風丸は言葉を続ける。
「一緒に代表呼ばれた時とか、豪炎寺の背中見るのけっこう好きだからな」
 言ってから気恥ずかしくなったのか急に上掛けの中に潜り込もうとした肩を捕まえて、シーツに押し付ける。
「……おれ腹へったんだけど」
 口を尖らせ不平を唱える風丸の、目の縁がほんのりと赤い。
「後にしろ、今のはお前が悪い」
 返事は待たずにキスをした。
(ここまで)